おかあさんが死にました・その5

おかあさんが死にました・その5

11月10日水ようび はれ
おかあさんが 死にました

おかあさんには
いのちがあと一か月だなんて
とても言うことはできませんでした

おかあさんがもうすぐ死ぬ
おかあさんがもうすぐ死ぬ
このことを
私は一人でせおう覚悟をしました

それがしんどくて しんどくて
その頃のことを
私はよく覚えていません

11月10日水ようび はれ
おかあさんが死にました

おかあさんは
自分のいのちが長くないことに
気づいているようでした

なのに私に
それを訊くことをしませんでした

もっともっと、泣き叫んで
問い詰めて怒ってくれたら
少しは私の気持ちも軽くなれたのに
おかあさんは 常に冷静で
何も 訊いてくることはしませんでした

11月10日水ようび はれ
おかあさんが死にました

記憶が働かないまま
フラッシュバックのように
私の脳裏をかすめる場面は
病院に毎日通う途中
寒いホームで電車を待っている自分
そのとき着ていた
白いニットのジャケットにGパン
だんだんとすさんで 
野良猫のようになっていく
猫のごんたの姿だけでした

11月10日水ようび はれ
おかあさんが死にました

毎日毎日
同じニットとGパンで
いつ お風呂に入ったのか
いつ ごはんを食べていたのか
それすら覚えていません

おかあさんがもうすぐ死ぬ
おかあさんがもうすぐ死ぬ
そのことだけが
ぐるぐると駆け巡っていて
ぼんやりと 頭が狂っていく自分を
自覚していました

11月10日水ようび はれ
おかあさんが死にました

11月10日水ようび はれ
おかあさんが死にました

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