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ほぼ廃人と化した女が吐く、ネガティブ詩や散文
「震える舌」
原作:三木卓
監督:野村芳太郎
主演:十朱幸代、渡瀬恒彦

これも何十回観たか知れない。
1980年公開のこの映画は、
「恐怖映画」として描かれたそうだが、
私から言わせるとどこが「恐怖」なのか、
むしろ「ヒューマン映画なんじゃ・・」と思わせる程、
当時としては非常にリアルに、主人公の娘が破傷風に感染し、
痙攣発作を繰り返す様が描かれている。

「震える舌が怖すぎる件」とか?
「日本版エクソシスト」とか?
どこが?あんな良い話なのに・・・と思う私がおかしいのかしら?

娘役の当時の子役、若命真裕子(わかもりまゆこ)、この子がまた
今どきの子役なんかよりよほど可愛く、迫真の演技を見せる。

破傷風は全身の骨格筋痙攣が症状の特徴で、
弓そり緊張と言って背骨が思い切り反れ、
それによって脊椎骨折して死亡したり
牙関緊急(がかんきんきゅう)と言って
開口不全になり、舌を噛んで出血する。
しかし意識は清明なまま、と言う、
激烈な苦痛を伴う恐ろしい感染症のひとつ。

それを若命真裕子は見事に演じている。

そして、中野良子扮する主治医が実に熱心な医師として、
頻回な痙攣発作の処置、治療に当たる。

何より主演の十朱、渡瀬扮する両親が
刺激を避けるための隔離暗室の中で
日を負うごとに、愛しい我が娘の姿が
苦痛の余り、本来の娘 の姿ではなくなっていくのを目の当りにして
精神がおかしくなっていく様は、実にリアルだ。

この二人は撮影にあたり、実際に寝ない食べないを実践したと言う。
確かに、メイクだけではこうはならないだろう、と思わせる。
日に日に顔がやつれ、本当に憔悴し切っている。

「ホラー」とか「恐怖」とかの「非日常世界」ではない。
病に冒された人間と言うのは、
ときとして「普段のその人」の姿ではなくなって行くものであり、
その姿を看ているしかない家族は、
精神がおかしくなって当たり前である。

家族としても、病棟職員としても看る側であった経験のある私には
その様が、実にリアルな光景として映った、と言う訳で。

ネタバレになってしまうけど、
若命扮する娘の昌子が破傷風を乗り越え、初めて
チョコパン・・たべたい・・
チョコパンだよーーーチョコパンだよーーーーーお!!

と言葉を発する。
クライマックスシーンで必ず流れる
藤原真理のチェロ・バッハの無伴奏チェロ組曲に、
思わず胸が熱くなり
渡瀬扮する父親が全速力で缶ジュースを買いに走る。
急ぎ過ぎて転び、缶ジュースを握り閉め、
もはや錯乱に近くなっていた妻の前で
それまで常に張り詰めていた緊張の糸が緩み
安堵と共に初めて嗚咽する父親の心と自分が同一化したように
涙が溢れて来る。

あれは私にとって「恐怖映画」なんかじゃない。
何度観ても「ヒューマン映画」だ。
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【2012/06/15 05:44】 | 映画、ドラマ、音楽 favorite
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