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ほぼ廃人と化した女が吐く、ネガティブ詩や散文
当時の支援センター通いの頃、五郎さんと言う
60近いおじさんがいた。
彼は、しょっちゅうセンターに顔を出していたけど、
なんだか呂律も回っておらず、
やたら日焼けして、日雇い労働者みたいな印象だった。

病名はわからなかったけれど、
酔っ払ってやって来てはスタッフにからんだり、、
産まれて間もない子犬を4匹、炎天下の中、
自転車の前かごに積み上げて来て、
虫の息になっている一匹の子犬に、
「こいつは内気でやる気がねえ!たるんでるんだぁ~」
などと言っており、私は呆れた。

ボスは、
「五郎さんはぜーんぶ精神論になっちゃうのねー」
なんて笑っていたけれど。

私は、当初
(なんてきったねえオヤジなんだ。
下品で無神経で、どうしようもねえよ)
と、彼のことが嫌で嫌でたまらなかった。

でも、そんな五郎さんと
毎回のようにセンターで会っていたある日、

「あのさあ、赤ん坊ってなあ、たまごで生まれんのかあ?」
と私ともう一人の利用者に素朴に訊いて来た。

私は絶句した。60近くて、
確か息子も遠方に居るはずの彼がなんでそんなこと訊くの?
子供の作り方さえ忘れてしまったの?と。

隣りにいた利用者が淡々と
受精の仕組みを話して聞かせているそのそばで、
私はその質問に応えるより何より、
なんて言うか、、、、切なくて、悲しくて、
彼のことが愛おしくてたまらなくなった。

更に彼は、菅原文太が大好きで、
そのビデオをみんなで観たいのだと言う。
そう言うときは「みんなのノート」と称する、
利用者専用のノートに書いて知らせればいいと
スタッフが話したら、

「おらぁ、もじがかけねえからよぉ~」そう言って

「菅原文太のビデオをみんなでみませんか」

たった、たったそれだけの文章を、
スタッフに教わりながら、
一生懸命何度も何度もメモに下書きして練習してた。

その光景を見ていた私は、胸がいっぱいになった。
そんな彼が無性に健気でひたむきに見えて、やっぱり切なくて、
悲しくて、愛おしくてたまらなくなって、
こみ上げて来るものを抑えきれずに、2階に上がって号泣した。

私の元に来た、ボスや他のスタッフも
「たまごで産むのかって訊くんだもの!訊くんだもの!」
そう言って泣きじゃくる私に戸惑っていた。

なぜあんなに泣いたのか、
自分でも未だによくわからない。

五郎さんは殆ど知識を持っていなかった。
だから私は、人間本来の姿をそこに見たのかも知れない。

重たい歴史を背負っていながら、病気のためか、
何のせいかはわからないけれど、ただ丸裸に生きるしかない、
ひたむきな人間の姿を。


知識を身につけるのは大事なことかも知れない。
でも、その知識に汚されると、
見えるものも見えなくなる時がある。

五郎さんも、昔は知識を持っていただろう。
でも、それがだんだんとなくなって
汚れ知らぬ姿 になった五郎さんを私は見たのかも知れない。

それ以来、私は五郎さんと仲良しになって、
彼が素朴に尋ねて来ることに、いろいろ応えると、
彼も病院のことや、犬の餌のこと、社会保障制度のこと、
訊く度にホッとした様子で
ふら~っと現れてはふら~っと帰って行くのだった。

「いしゃなんてよぉ~あれだろ?
かねもうけのことしかあたまにねんだろ?」

なんて、いっつも同じ悪態をつきながら。

ある日その後姿を、ボスと二人で見送っていたら、

「五郎さんはさあ、自分が良かった頃のまま、
その頃のままで、記憶が止まってるんだよね・・・」

そのボスのひと言が、未だに鮮明に残っている。

未来を担う子供たちより、
重たい歴史を背負う大人たちと多く関わるのが、
PSWの仕事かも知れない。


フリー画像・砂時計







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【2018/02/25 00:04】 | PSW(精神保健福祉士)
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