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ほぼ廃人と化した女が吐く、ネガティブ詩や散文
支援センター通いをしている頃、ミカさん(仮名)と言う、
滅裂思考らしき症状を持った30代女性がいた。
(統合失調症・発病が相当早いと推察)

彼女は明らかに母親の愛情に飢えており、
その反動として私や周囲の女性職員に母親像を投影しては、
常に怒りをあらわにしていた。

友達なんか必要ない、一人がいい、と思っているらしいことが、
意識です。意識の外の意識です!
などと言う意味不明な言葉や行動からうかがえた。
悲しい彼女は幼い少女のように、
うわべだけ優しい男性職員に甘え、彼を慕っていた。

ある日の夜、たまたま私が密かにボスと呼ぶ、ベテランPSWと
私とミカさんの3人だけになったところで ボスはミカさんと話し始めた。

鋼のように、他者の言葉をはねつけ、決して心を開こうとはせず、
ただ滅裂思考ながら、
一人きりで生きることがいちばん大事だ、自分の考えこそ絶対だ、
と言って聞かない。
ボスや私が何を言っても
ちがいます!そうじゃないです!
と、思い切り怒鳴る、叫ぶ、
手のつけようもないほどマイナスの感情を迸らせていた。

それでもボスはあきらめない。

易しい例え話を引用して、
いかに仲間と一緒に生きることが大切か、
いかにいろんな個性を持った人間がいるか、
と言うことを何度も何度も話して聞かせていた。
私もその場に入って、話は2時間近くに及んだ。

例えば車ってさ、いろんな部品から出来てるでしょ?
その中のたったひとつでも壊れたら、もう動かなくなっちゃうよね?


動かなくなったら車庫に入れとけばいいじゃないですか?!
てな調子で、 彼女には比喩表現さえ通じない。

それでもボスはあきらめない。

んー・・・じゃあどう言ったらいいかな・・・
例えば木にはいろんな実がなるでしょ?
でもよく見ればひとつとしておんなじ実ってなくてさ、
大きかったり小さかったり、丸かったり長かったりするよね?


何度でも、何度でも優しく語りかけるボス。

私も、どう表現したら彼女に伝わるだろうと、
そのたくさんの実の中のひとつひとつが、ミカさん、
あなたや私やボスなんだよ。

と、ボスの話を受ける形で語りかける。

ちがいますよ!ちがいますよ!そうではないっ!!
そうわめき散らす彼女は本当に鋼のようだった。

そんな会話を何度も何度も続けているうち、
怒鳴ってばかりいた彼女が次第に黙ってうつむき、
大粒の涙をぽろぽろとこぼし始めた。

ひとりぼっちでさびしい・・・
彼女は怒りつつ、内心ではしきりにそう訴えているように私には聞こえた。

そこに懸命に応えようとしているボスの思いが彼女に伝わった、
私はそう確信した。

その後、次第に彼女は今までに見たこともないような柔らかな表情になり、
笑顔を見せ始め、落ち着いて、ボスや私の話に聞く耳を持つようになった。

それはまさに 雪解けの感 であった。

私は内心
良かったね、ボス。あなたの本気の思いがちゃんとミカさんに届いたよ。
そう呟いていた。

エネルギーを使い果たしてくたびれ果てて、
家に辿りつくと私はその場に倒れ込んだ。

でも、確実にそれ以来ミカさんは変わった。

キツかったけれど、ボスの熱い思いと、
ミカさんの悲しみをそこに見たひとときだった。

世間じゃ知られていないPSWと言う仕事。
そして、PSWにも様々だけれど、
ボスのような、PSWもいるのだと言うこと。

統合失調症の症状は薬で抑える。それが一般的な治療とされている。
勿論薬も大切だろう。
だけど、あれだけめちゃくちゃだった彼女に
とことん語り続けたボスの思いが、彼女の心に響いた。

誰も知らない、おそらくずっと、知られることもないであろう
あの日の夜の、あの雪解け。
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【2011/09/21 07:03】 | PSW(精神保健福祉士)
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